1999年秋 世田谷・二子玉川ロードレース

「再スタート」

 10月3日午前10時、僕は二子玉川の運動公園で「世田谷ジョギング全国大会」の10kmコースのスタートラインに立った。2年前と同じ、あの独特の緊張感につつまれる。

 初めてのロードレース、「信濃山形ロードレース」出場から2年。あのときは職場の同僚と結構軽いノリで参加し、走ることの大変さを思い知らされた。反面、ゴール後の限りなく爽快な気持ちを知ってしまった大会でもあった。しかしその後、職場が変わり一緒に走った同僚達と離れたこともあって、ロードレースからは遠ざかってしまっていた。

 そして99年。同じ職場に10kmのロードレースに度々出ている「走る」上司がいて、レースに参加しないかと誘われ、久し振りにやってみるかということになった。

 2年前に味わったあのゴール後のなんともいえない爽快感が忘れられなかったのも一つだが、ここ何ヶ月かジム通いで体を鍛えているので、その成果を見てみたいと思ったのだ。年齢を二つ重ねているにも関わらず、前回の悲惨な記録を少しでも縮められれば、ジム通いの成果大いにありということになる。

 スタートの号砲。約400人がいっせいにスタートをきる。僕も勢いよく飛び出した。しかし走り出してすぐに愕然とした。息の苦しさが、心臓のばくばく度が、2年前と同じ、いやそれ以上なのだ。「ジムで鍛えた今の自分は、2年前の鈍っていた体とは違う、余裕で10km走りきれるはず」、そう思っていたのに・・・。僕のこの数ヶ月は何だったんだ?? 2km、3km、6km、7km・・・苦しい。辛い。「なんでこんな苦しいことしてるんやろう。二度とこんな苦しいことはすまい」2年前と全く同じことを思いながら、それでも、とにかく走った。

 息も絶え絶えにゴールイン。ようやく苦しさから開放された僕は、記録を確認しようと腕時計を見た。そして驚いた。49分20秒。なんと僕の記録は2年前に比べて5分以上縮まっていたのだ32才の僕は、20代の若者だった当時の僕と同じくらいの苦しさで走って、当時の僕に約1km以上の差をつけてゴールした。ジム通いは無駄ではなかった。30過ぎにして、肉体の成長を実感した。前回以上の達成感。「次は45分だ」僕はそう思っていた。

 走ることは辛い、しんどい、苦しい。走るたびに、少し後悔する。だけどゴールしたときには、なぜか「また次」と思ってしまう。なんとも言えない充実感がある。少しづつ記録が縮まる。走ることは辛く、しんどく、苦しいけれど、とても楽しいことなのだ。そんな知らなくてもいいことを知ってしまった、1999年の秋だった。


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