1997年初夏 信濃山形ロードレース

「THE LONG DISTANCE」

 93年の上岡龍太郎・独演会で「三人のランナーの物語」に感動して、マラソンに興味を持った。かと言って、すぐに走り出すということもなく、時間は経過していった。

山形村の完走者達

 96年秋、僕と同じようにマラソンになんとなく憧れを感じている同僚数名と飲んでいたときのこと。ひょんなことから、翌年のニューヨークマラソンに参加しよう、という大変な話になってしまった。まあ、まだ1年以上あるし、これから練習すればなんとかなるでしょう、そんな軽いノリだった。3年前、僕の中に漠然と芽生えたマラソンへの憧れが、急に現実味を帯びてきた。

 目標ができた僕たちは、とりあえず「10kmのロードレースに出てみよう」ということになった。誰が見つけてきたのか、長野県の山形村というところで5月に開催される「信濃山形ロードレース」に申し込んだ。確か高校のマラソン大会が10kmだったが、そのとき以来、長距離は走ったことが無かった。気分だけは盛り上がっているものの、大した練習もせず僕は山形村に赴くこととなった。

 山形村は、見渡す限りの田園風景が広がるのどかなところだった。当日は汗ばむほどの晴天。会場には、特産物を並べた売店や食べ物を売る露店が立ち並び、ちょっとしたお祭りといった感じ。ゲストランナーの谷川真里さんの登場に、盛り上がる立つランナーたち。ワイワイ、ガヤガヤ。マラソン大会って体育会系の厳しい雰囲気なのかと思っていた僕には、このにぎやかさは意外だった。

 やがて、スタートの時間がやってきた。ラインに立つと、独特の緊張感に包まれる。スタートの号砲。周りの勢いにも押され、僕は飛び出した・・・・。マラソンへの憧れだけが先走りしていた僕は、すぐに自分の甘さを思い知らされることとなる。スタートして500mもいかないうちに、息はあがる、心臓は破裂しそうになる。そんな僕の横を、小さな女性や70才くらいはあろう爺さんがさっそうと抜き去っていく。動かなくなった足を引きずるようにして前へ進むけど、ゴールが近づいてくる気配はない。10キロという距離がこんなにも長いものとは思わなかった。「なんでこんな苦しい思いをするために、俺はこんな遠いところまできたんやろう」・・・自分を恨み続ける10kmとなってしまった。

 息も絶え絶えにゴールイン。記録は55分。普段走らない人にはピンとこないかもしれないが、20代の参加者120人中、約100番目といったところだった。(それでも僕の後に20人もいたとは、意外?)走っている間中、「これが最初で最後のレースや。こんなこと、もう二度とやるもんか」と固く心に誓っていた、はずなのに・・・・。ゴールした後、地面にひっくり返って目の前の青い空を見上げていて、「おや?」と思った。不思議なことに、とても良い気分なのだ。言葉では言い表せない爽快感。そして達成感。「また走ってみてもいいかな」という馬鹿な考えが少し芽生えた。

 結局その後、職場が変わり、一緒に走った同僚達と離れたこともあって、ロードレースからは遠ざかってしまった。本格的にランニングにのめり込むのはには、さらに二年が経過してのこととなる。(よくある話ですが、当初盛り上がった「ニューヨーク」行きも、結局立ち消えとなりました)


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