2002年初秋  MAUI MARATHON 〜序章

「マウイ、カアナパリ、ホエラーズビレッジ、9月の空」 

序章「マウイ・ホエラーズビレッジ、9月の空」/「マウイマラソン・レース当日」//「写真で綴るマウイ」

 マウイ島、カアナパリ、ホエラーズビレッジ前の芝生の上。朝10時過ぎ、天気は晴れ、気温は既に30度に迫っているけど、乾いた風がむしろ涼しく感じられる。目の前は、マウイマラソンのゴールライン。42.195キロを走ってきたランナー達が、次々と帰ってくる。芝生の上に座り込んだ僕は、目の前で繰り返されるゴールシーンの数々を見守っていた。「42.195キロ走る」というのはやっぱり大変なことだ。ただごとじゃない。帰ってくるランナー達を見ていて、そう実感した。

 最後のラストスパートに、涙をびゅんびゅん横にとばす少女。ゴール後、ワンワン大声を上げて泣きじゃくる彼女を、出迎えた大男がこれまた涙で抱きしめる。
 満面の笑顔で沿道に手をふりながら帰ってくるおじさん、でもやっぱり目にはいっぱい涙が溜まっている。小太りで禿げたおじさんが、こんなに
神々しく見えるのは何故だろう。
 ヘッドホンを付けた黒人女性がダンスを踊りながら帰ってくる。ステップ踏んだり回ったりするので、なかなか前へ進まない。沿道、大ウケ。どこから、踊ってきたん?
 しわくちゃのおじいさんが、しわくちゃのおばあちゃんを抱きかかえるように、二人寄り添ってラブラブのゴールイン。
あんな風に年がとれたらええなあ。
 引きつった足を手で抑えながら苦痛の顔で帰ってきた青年に、一同拍手喝采!「がんばって、苦しい道のりをあなたは、
42キロと180m走ってきたじゃないの。あと15mがんばって!」僕の隣で声援を送るおばちゃんが、これまた泣いている。

 目の前のゴールラインを抜けていくのはみんな、一見普通の人達。だけど実は、みんな「ただごとじゃない」距離、長い長い42.195キロを走りきった「すごい人達」だ。そんな彼らの、感動のラストシーンを、こんなに連続してこんなにたくさん見られるなんて、ここはなんて贅沢な空間なんだろう。ここに立ち会えた僕は、なんて幸せ者だろう。永遠にここで、拍手と声援を送っていたい。・・・・心地よい疲労感に包まれた僕は、夢の中にいるような気持ちでそんなことを考えていた。

 ・・・・・そういえば、ついさっき、僕自身もこのゴールラインを走り抜けたのだ。僕のラストシーンはどんなだったんだろう。自分ではよく覚えていない。こぶしを突き上げた記憶はある。何かを叫んだような気もする。涙は出たっけ、笑ってたっけ。今の僕みたいに、まわりの人達は、感動したのかなあ。
 まあ、人を感動させるために走ってる訳じゃない。とにかく本当に良かった。僕自身が自分のゴールに感動できて、おまけにこんなに数多くのランナー達に感動を貰ったんだから。マウイに来て、走って走って走りきって、本当に良かった。(いつも感動してしまう、単純です)