2001年初冬  クリスマスチャリティーランin皇居

「ニューヨークシティーマラソンへの想い」

  「ニューヨークシティーマラソンはいっときも気の休まる暇がない。走っている時間中、42.195kmの間、ずっと感激と感動と感謝が続くからだ。スタート直後から音楽の洗礼。ベースばかりの10人編成のロックは、まるで津軽三味線。ひとりの少女がアカペラで「キープ オン ゴーイング」と歌いつづける。バグパイプ、ジャズコンボ。消防隊ははしご車の上で吹奏楽。ユダヤ人街ではただ静かに軒先で見守る。少年たちが恥ずかしそうにハイタッチ。スタッテン・アイランド、ブルックリン、クィーンズ・・・。25kmを過ぎクィーンズボロー橋を渡り終え、マンハッタンのファーストアベニューへ降りる。ロックバンドが大音響でエルビス・プレスリーを演奏している。その演奏の中から、大観衆の姿が目に入ってくる。
 雨の日も小雪の日も、総勢200万人のニューヨーカーが、沿道からランナーにメッセージを出し続ける。ランナーは走ることでそれに答える。これが世界一素晴らしいマラソン大会である。
アメリカ人の知性と情熱はすごい。

(上岡龍太郎・著 ランナーズ発行「マラソンは愛と勇気と練習量」より)

 いきなり、僕のランニングライフのバイブル、上岡さんの著書の引用から始めたが、何も作文にゆき詰まって手抜きをした訳ではありません。僕がマラソンに対して夢を抱くきっかけになった、こころから感銘を受けたその一節。そのまま引用することが、一番人に伝わりやすい方法だと思ったからだ。

 いつか走ってみたい夢の大会、ニューヨークシティーマラソン。毎年11月に開催されるこの大会に、今年も仕事の都合やら何やらで参加に踏み切ることができなかった。そして、憧れの気持ちばかりを募らせていた9月11日、あの悲劇が襲った。高層ビルに突っ込む旅客機、崩れ落ちるビル。泣き叫ぶ人々。廃墟と化した街の風景が何十回とテレビ映像で流された。「ああ、もう今年のマラソンは中止やな。・・・というよりも、もう永久に開催されないんじゃないだろうか」とさえ思えて、悲しい気持ちになった。
 ところが、事件の数日後、ニューヨークのジュリアーニ市長が出した声明を聞いて、僕はとても驚いた。「
今年のニューヨークシティーマラソンは予定通り開催します。」テロリストの脅威に屈しない。その証しとして、世界最大のマラソンの祭典を中止せず、開催する。マラソンを愛する200万人のニューヨーカーと、世界中の市民ランナーのために。それが、市民への癒しにもなる。やはり上岡さんの言う通りだった。「アメリカ人の知性と情熱はすごい!」

 11月4日、テロに対する厳重な警戒態勢のもと、世界最大のマラソン大会は開催された。「United We Run」(私達は走り、団結する)をスローガンに、25,000人のランナーが42.195kmのゴールを目指した。「Thank you for comming. Today, You're New Yorker !!」ニューヨーク市民の熱い歓迎と祝福の波は、史上最大のものだったらしい。ああ、何を置いても、「飛行機恐い、テロ恐い」とか言わずに、行けばよかった。(今さらながら・・・)

 12月16日。抜けるように晴れ渡った初冬の日曜日。僕は皇居で開催された「クリスマス・チャリティーランin皇居」に参加してきた。主催は「ニューヨークランナーズクラブ」(どういう団体なのかいまいち不明)。参加費は、テロ復興のために寄付されるとのことだ。皇居の周回5kmのアップダウンを3周、15kmを完走した。走りながらいろんなことを考えた・・・。


 ・・あの事件から二ヶ月たった。日本では「愛子さま」が誕生。あまり関係ないようだけど。でも、失われた命がたくさんあって、生まれ来る命がまたいっぱいある。人の世というのは不思議だ。

 世界では、いつもどこかで、戦争をやっている。日本に住んでいると、忘れがちだ。テレビに映るアフガンの子供たちは、機関銃をかかえて遊んでいた。アジアでも、アフリカでもヨーロッパでも、子供たちが地雷の埋まった大地を走り回る。イスラエル、パレスチナ、今日も幼い命が消えていく。

千鳥ヶ淵を左に見ながら桜田門へ下る

 でも、僕は思う。いつか、全ての子供たちの前から戦争が無くなって、民族や宗教の垣根を越えて、たとえばマラソン大会なんかに集える日が来てほしい。よく晴れた日曜日、みんなでワイワイ集まって、ゼッケン貰って、走って走って、いい汗かいて、ゴールして。スポーツドリンク貰って、みかん貰って、夏はアイス、冬は豚汁。ビール飲んで(あっ、子供はジュースね)、楽しく家路につく。アラブもユダヤもアメリカも、みんな一緒に参加賞貰って帰る・・・。

 愛子さまが大人になる頃に、そんな世界になっていたらいいのに。

 いい汗をかいた。そして激動の2001年が暮れていく。

 「待ってろよ、ニューヨーク。必ず行ってやる。そして走ってやる。待ってろよ、ニューヨーカー。お前らの感動と感激の渦巻く喝采の嵐を全身に浴びて走ってやる。待ってろよ、ニューヨーク・シティーマラソン。僕が行くその日まで。」

 師走の空に誓うのであった(?)。



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