いつの日か、フルマラソンを走りたい。42.195キロ先にある「何か」を体験してみたい。そんな思いで、ランニングを始めたし、今もその思いは変わらない。 |
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初めて10キロのレースに出たときは、とても辛くてゴールが果てしなく遠くに思えた。走り終えたとき、「フルマラソンは、今のコースを4回走らないといけないのか。あのしんどい思いを4倍・・・・。僕には無理だ。」と思った。でも、今まで全く想像すらできなかった「42.195キロ」という距離を、初めてイメージできた瞬間でもあった。その後何度か、10キロのレースを走った。そして最近、「あのしんどさを4倍しないとフルは完走できないのか。」ではなく、「今の走りを4回繰り返せばフルを完走できるんだ」という気持ちに変わってきた。似てるようだけど、違う。より、その距離を走りきる自分がイメージできるようになってきた。 |
10キロのロードレースを何回か走った僕が、「42.195キロ」へ向けての次のステップとして挑戦することにしたのは、20キロレース。10キロのとき、いつも感じている「今の距離の4倍がフル」という思いを、「今の距離の2倍がフル」にして、目標である42.195キロをより実感したい、と思ったのだ。そして、20キロ初挑戦の舞台として選んだのが「横浜ロードレース」。桜の花がまさに満開になった4月9日の日曜日、スタート地点は横浜・綱島、大綱公園。鶴見川の河川敷を走る平坦なコース。天気もよく、「初挑戦」には好条件だ。 いつもながら、スタートラインで感じる独特の緊張感。しかも今回は、「20キロ」という未知の距離に対する思いが、いつも以上に緊張感を高める。「果たして走りきることができるのか?経験したことの無いような苦しさが待ち受けているのでは・・」という不安と、「今の自分なら、20キロを完走できる。10キロレースであれだけの達成感を得られるのだから、今回のゴールの先には経験したことの無いような感動が待ち受けているに違いない」という期待。目標は完走。いや、欲を言えば2時間以内での完走。いやいや、欲を出して後半走れなくなっては、元も子もない。とにかく完走だけを目指そう。そんな思いを乗せて、僕はスタートラインを越えた。 河原のランニングロードは起伏が少なく走りやすい反面、風の影響をもろに受けるというデメリットも併せ持つ。風に向かって走る。思うように体が前に進まない。前から何かが僕を押しとどめようとしている。やがて前方に折り返し点が見えてくる。「あそこだ。あそこまで行けば、あそこで折り返せば、今度はこの風が僕を押してくれる。もう少し。あと少し。」そして折り返す。ところが、風は気まぐれだ。何故か風向きが変わるのだ。今度は、横から風に殴られながら走る。何でやねん、くそ!・・・・。勿論、レース中には追い風になることもある。ただ追い風のときは風を感じないので、あまり印象に残らない。結局、風と格闘している印象ばかりが残る。 走っているうちに僕はあることに気がついた。「ごおぉぉーー」「びゅうぅぅー」という風の音。今までは、風自体がそんな音をたてて吹いているんだと思っていた。でも違う、あれは風が何かにぶつかるときに鳴る音なのだ。風自体はどんなに強くても、実は無音なのだ。それが証拠に、向かい風のときに他の音が何も聞こえないくらいに鳴り響いていた轟音が、追い風になったとたん、突然静寂に変わる。「そよそよ」は風が草にあたる音。「ざわざわ」は風が木々にあたる音。走るときに感じる「びゅうぅぅー」は、風が僕の耳にぶつかる音なのだ。 不思議だ。向かい風で辛いはずなのに、長い長い未知の距離なのに、「風って何?」などと非建設的なことを考えながら走っているうちに、いつのまにか18キロを過ぎていた。勿論、体力は限界に近づいている。でも以前のような、「息も絶え絶え」「足を引きずり・・」というような苦しさはない。呼吸も足の運びも、リズミカルで一定のペースを保てている。結局、20キロを1時間45分で完走。キロ5分強という、10キロのときとほぼ同じペースを、20キロ維持できたことになる。走れた。目標達成!その上、「キロ5分強」という自分のペースに大いに自信を持った。ゴール後の達成感は期待通り、距離の長かった分大きかった。そして何より、レースを経験する毎に、走ることそれ自体が、苦では無くなってきていることを感じる。 「今日の距離を2回走ることができれば、それがフルマラソンだ!」 |