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僕の生まれた町は、昨年、世界遺産に指定された。「古都奈良の歴史地区」。子供の頃、部屋の窓から見える、若草山や東大寺の大仏殿、興福寺の五重の塔は、ごく当たり前の風景だった。駅前や商店街を鹿が徒党を組んで歩いているのも、日常的な風景。日本中が、そうなんだと思っていた。池や小山があればたいがい古墳。土壁、石仏、古いものが町じゅうにさりげなく点在している、そんな町で僕は育った。 |
中学校のときに入ったテニス部のトレーニングで、走るのはいつも東大寺の境内。境内といっても、東大寺はバカでかく、どこからどこまでが境内なのかわからない。有名な大仏殿を筆頭に、二月堂、三月堂、南大門、転害門、正倉院、戒壇院・・・・(個人的には戒壇院など好きです。観光客も少なく鄙びた感じがいいです。お勧め)。自然に囲まれ、適度のアップダウンがあり、車を気にする心配も無い。難を言えば、大仏殿近辺に溢れている観光客を、如何によけながら走るか、ということくらい。ロードワークには最適だった。トレーニングのクライマックスは、「二月堂ダッシュ」。二月堂というのは、東大寺の中でも一番高い場所にあり、長い石段を登りきったところに京都の清水寺のような舞台がある。この石段をダッシュで駆け上がり、舞台の上は軽いジョグで流し、また反対の階段をダッシュで駆け下りる。これを何セットか繰り返す。観光客をかき分けかき分け、ドタバタドタバタ。・・・・今思えば、世界遺産の建造物でよくあんな無茶なことをやってたもんだ。今も昔も、中学生のすることは恐ろしい。 |
奈良春日大仏マラソンは、近畿地方では割と大きな大会で、今年で20回目を数えるらしい。僕が奈良を離れたのは、もう15年も前のことだが、その頃すでにこの大会が開催されていたことになる。全然知らなかった。昨年からランニングをするようになって、初めて知りました。とにかく、出なくては。参加費3500円プラス、横浜・京都間の新幹線往復代がかかろうとも(嫁と一緒なので、×2、トホホ)、休みがとれず土日だけの強行軍であっても。愛すべき生まれ故郷、世界遺産の町、この奈良での、マラソン大会とあっては。 |
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という訳で、2000年12月3日。僕は奈良公園・春日野園地に立っていた。朝から霧雨の降るあいにくの天気だったが、約4000人の市民ランナーが集まった。ゲストランナーは、昔「市民マラソンに出るシンガーソングライター」、今は「歌う市民ランナー」の高石ともやさん。ミニコンサートなんてやっている。スポーツメーカーや名産品の模擬店も多く、大変な盛り上がりだ。 10kmの道のりは、僕の生まれ育った町なみをそのまま辿るようなコースだった。もちろん変わってしまった場所もある。でも、この町は基本的に昔のままだ。きっと1200年前から、そんなに変わらない風景がここにはある。若草山のふもとを走り、春日大社の参道を抜け、南大門の金剛力士を横に見ながら、世界最大の木造建築を目指す。正倉院、二月堂、中学生の頃に気持ちが還る。途中、ランナー達の流れが乱れていると思ったら、コースの真中に鹿がいた。こんなこと、他の大会ではありえません。あまりの人の大群に、普段は人馴れしている鹿も、かなり怯えていた。「ごめんなさい」と心に思う。 紅葉に彩られた、10kmの道のりを走り終えて、僕は改めてこの町の素晴らしさに感動した。住んでいた頃には気付かなかった、豊かな自然と美しい町並み。今は、この町を世界中の人たちに紹介したい(真面目)。パリ、ローマ、イスタンブール、北京、バンコク。どんな町にも劣りません。これが、日本の「古都」です。日本の誇る「世界遺産」です。全世界の市民ランナーの皆さん。是非、ニューヨークシティマラソンや、ホノルル、ロンドン、ボストンのついでに、奈良にも走りに来てください。ちなみに参加賞は、おいしいおいしい「柿の葉寿司」です。(賞味期限は当日中) |