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東京、国立競技場。ここは、多くの名勝負の舞台となった場所だ。 「40kmを過ぎて抜け出したトップランナー。ペースが上がる。ラストスパート。やがて国立競技場が正面に迫ってくる。マラソンゲートの暗闇を抜け、競技場のトラックへ飛び出す。まぶしい光と沸きおこる大歓声。追い上げてきた後続のランナー。42・195kmの長い戦いの最後は、トラック勝負となる。歓声がより一層高くなる。割れんばかりの大歓声の中、トップランナーはゴールのテープを切った。・・・・」 |
マラソンをする人じゃなくても、誰もがテレビで見たことのある光景だろう。トップランナーだけが踏みしめることのできる、あの国立のフィールド。・・・・ところがなんと、参加費3000円を払うだけで、誰でも憧れの国立競技場を走ることができるレースがある(但し10km)。それが、神宮外苑ロードレース。スタートは勿論、国立競技場のトラック。神宮外苑の周遊コースを走り、最後は、あの「マラソンゲート」をくぐり、再度トラックへ。観衆の見守る中、ゴールも当然、国立競技場のトラック。市民ランナーにとって、こんなにも気持ち高ぶるシチュエーションが他にあるだろうか、いやない(反語)。最近、10kmのレースでは、あまり緊張しなくなっていたのだが、今回は朝から何やら落ち着かない。緊張というか、ワクワクというか、とにかく、こんな感じは久しぶりだ。 開通してまだ数日しか経っていない都営地下鉄「大江戸線」。そのものズバリ「国立競技場」駅の出口を出ると、目の前にあの「マラソンゲート」がそびえていた。早くも感動してしまう。単純な僕。受け付けをすませて、荷物置き場、兼、更衣室、兼、応援席になっているメインスタンドへ。本日のエントリーは約3000人。参加者プラス応援者で、スタンドは結構埋まっていた。目の前に広がるトラック&フィールドを見て、またまた感動してしまう。まったくもって単純な僕。今日はゲストランナーとして、あの瀬古利彦さんがきているらしい。「皆さんが僕の胸を借りるのではなく、僕が皆さんの胸を借りて走ります」なんて、挨拶している。あの瀬古さんに僕の胸を貸すなんて!感動の嵐。単純にも程がある。 |
いよいよスタートの時がやってきた。(勿論)初めて踏みしめる国立競技場のトラック。一歩一歩、その感触を確かめる。気分はもう、「これから42.195kmを走るトップランナー」になりきっている。アドレナリンの大量分泌。号砲とともに、ランナーは一斉にスタート。最初、トラックをほぼ一周し、競技場外に出て行く。スタンドの歓声は、それぞれの家族や友人に対するものだけど、全ての声援が自分に向けられているような錯覚を覚えた。 |
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コースは、競技場を中心にした神宮外苑の中の2kmの周回コースで、これを5周する。そして、少し残念なんですが、一周ごとに競技場に戻ってきて、トラックを走ることになる。つまり、僕のもっとも楽しみにしていた、「やがて国立競技場が正面に迫ってくる。マラソンゲートの暗闇を抜け、競技場のトラックへ飛び出す。」というシーンを5回も体験することになってしまう。これは、ある意味喜ばしいことだが、逆に、感動が薄められることになる。・・・・と、いう訳で、僕は4周目までは、できるだけ「マラソンゲートの通過」を意識しないことにした。 久しぶりの「ワクワク」と程よい緊張感も手伝ってか、いつに無く調子がいい。足が軽い。少し肌寒い気温も、適度な陽の光も、心地いい。4回のゲート通過は、やっぱり少し意識してしまったけど、トラックに入る度に、自分一人に向けられた大歓声(と、勝手に思っていただけだが)が、背中を後押しする。最後の一周になると、周回遅れの集団に追いつき、どんどん他のランナーの背中を抜き去るようになり、さらに気持ちが昂ぶってくる。 ラスト1km。体が軽くなり、疲労や苦しさが消え去ったような感じがした。完全にテレビでいつも見るトップランナーになりきっていた。そしてついにその時がきた。「ペースが上がる。ラストスパート。やがて国立競技場が正面に迫ってくる。マラソンゲートの暗闇を抜け、競技場のトラックへ飛び出す。まぶしい光と沸きおこる大歓声。・・・・」鳥肌が立った。そのとき、信じられないほどのスピードがでた。(ような気がした。) ゴール。45分45秒。自己記録を2分も更新していた。ちょっとビックリした。気持ちの昂ぶりだけで、出せた記録か、それとも実力がアップしているのか。とにかく、いつにも増して爽快な気分だ。(一つ残念だったのは、楽しみにしていた「瀬古に抜かれる」という体験ができなかったこと。普通に考えて、5周の周回コースの間に2回は抜かれるはずだったのに、何故か瀬古さんには一度も抜かれなかった。でも、僕が速かったからじゃありません。後で聞くと、瀬古さんはとってもとっても、ゆっくり走っていたそうです。) |