メキシコ国旗

                油彩 キャンバス ミクストミディア  605mm×540mm

 メキシコ国旗は緑、白、赤のトリコロールで、真ん中の白の部分にはサボテンと蛇を捕らえる鷲の絵が描かれている。
 1810年にスペインから独立した際、ゲレーロ州のイグアラと言う小さな村で考案されたデザインである。その後、1910年のメキシコ革命の折に鷲のデザインが少し変わり、現在のものになった。このイグアラ村では、いつも山の頂上にバカでかい旗をおったてており、外からこの村を訪れる人々に、この村の歴史と誇りを知らしめている。
 被植民の歴史やアメリカからの軋轢(あつれき)に今でもうんざりしているメキシコ人は「自分はメキシコ人だ」というアイデンティティーがとても強い。それゆえに国家、国旗に対する思い入れは深い。
 友人のメキシコ人女性は、テレビのオリンピックやワールドカップ中継で国歌が流れるたびに感動し、鳥肌が立ち涙が出るという。また、ある飲み屋で、酔っ払った人がふざけて店に飾ってあった国旗を身にまといドレスに見立てて遊んだところ、周りの人から袋だたきにされた、という話を聞いた。神聖な国旗を汚された思いだったのだろう。
 国旗の色はそれぞれ緑=自然、白=純粋、赤=情熱という意味があり、彼らは何かにつけてこの配色を好む。メキシコの伝統料理にチレ・レジェーノというのがあるが、その料理もチレ(ピーマンの種類)の緑、生クリームの白、ざくろの赤という配色で、あきらかに国旗を意識しているもの。
 20歳のメキシコ人の女の子と買い物をしたときも、彼女は旅行トランクに巻くベルトの中で「これがいいわ」と、ためらわずに緑白赤の縞模様を選んだ。近所の小学生は「国歌を2番まで教わったよ」と、うれしそうに報告してくる。メキシコ国歌は長く難しい言葉が多いので、学年ごとに少しずつ教えるのだ。
 メキシコ人ならば当たり前に持っている国歌、国旗に対する愛情や誇り。それらをいつも目の当たりにしていると、君が代や日の丸に対して彼らと同じような思いを持てない自分が、ひどく寂しいものに感じてしまう。

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