HUAYAPANの門  日本人とインディヘナ

              # 油彩 キャンバス ミクストミディア  725mm×910mm


 メキシコ南部のオアハカ州にサン・アンドレス・ウァヤパンという名の村がある。通称ウァヤパン。メキシコを訪れて間もないころ、この村の家にやっかいになった。
 主(あるじ)である日本人夫婦とインディヘナ(メキシコ先住民)の一家が、広大な敷地内に同居していた。インディヘナの家族は門の傍らに居を構え“門番”と称し、大きな鉄製の扉を開け閉めしていた。高さ3mほどの見上げるような“壁”である。治安の悪さから身を守る手段として、西洋式の大きく頑丈な門作りがメキシコでは常識となっている。
 門の中に入ると、外の世界とは別の風景が広がる。外敵の侵入を防ぐため高い塀で土地を囲い、庭に樹木や芝生などを人工的に配置し、植木鉢や置物に趣向を凝らす。自然を模倣し、家の外に広がる自然の森林や、遠くに見える山までも庭の一部として再現する日本古来の意識とはかなり異なっている。しかし、「自然と共存」という意識が確実に日本人のDNAに受け継がれているように、インディヘナたちもこのDNAを持ち合わせている人々なのである。
 このウァヤパンの門の中には日本人とインディヘナが住んでいる。門をくぐると、人間の手があまり加えられていない風景が広がる。レンガで出来ている家やアトリエも、敷地内の林や畑に溶け込み、実に美しい景観になっている。
 門を開けてくれた裸足のおばあちゃんは、草むらに莚(むしろ)をしき、収穫したカボチャの種を取っている。それを手伝う14歳の娘も裸足である。周りを7,8羽の鶏が地面をつつきまわっている。ロバは種を取ったカボチャをハムハムと食べている。2人ともそれに気をとられることもなく、静かに手だけを動かす。平和でのどかな空気が庭いっぱいに広がる。日本人とインディヘナの、自然共存型DNAが存分に生かされている空間だ。
 門の外より内側に自然があるということに少なからず驚いた私は、振り返り、改めてその門を見直した。

前に戻る